「売上1.2倍」より「利益2倍」が現実的?固定費・変動費の整理で変わる驚きの利益シミュレーション

「もっと利益を出すために、まずは売上を伸ばさなきゃ!」
そう考えて、必死に新規顧客の獲得や広告宣伝に力を入れていませんか?
もちろん売上アップは大切ですが、実は「売上を1.2倍にする」よりも「利益を2倍にする」ほうが、難易度が低く、かつ健全に達成できるケースが多々あります。
今回は税理士の視点から管理会計の入門として、経営の数字を「固定費」と「変動費」に分けるだけで、なぜ利益が劇的に変わるのか。そのメカニズムと、明日からできる具体的なアクションを解説します。
なぜ「売上アップ」は苦しくて、「利益アップ」は簡単なのか?
多くの経営者様が「利益=売上ー経費」と捉えていますが、実はこの「経費」の中身をどう捉えるかで経営の難易度が変わります。
売上拡大に潜む「販促費」と「人件費」の罠
売上を1.2倍にしようとすると、多くの場合、追加の広告費や営業担当者の残業代、あるいは無理な値引き交渉がセットになります。結果として「売上は増えたけれど、手元に残るお金(利益)は以前と変わらない、むしろ減った」という本末転倒な事態に陥りやすいのです。
限界利益(粗利)のわずかな改善が利益を爆増させる
一方で、利益構造に注目すると、売上を無理に追う必要がなくなります。例えば、商品1個あたりの原価を少し下げる、あるいは「安売り」をやめて適正価格にするだけで、最終的な利益が数倍に膨れ上がる「レバレッジ(※)」が働くからです。
※「テコの原理」を意味し、少ない自己資金で大きな利益(または投資効果)を狙う手法です。
まずは自社の数字を「固定費」と「変動費」に分けてみよう
利益の構造を理解するための第一歩は、決算書の経費を以下の2つに区分することです。
-
変動費:売上に比例して動くコスト
材料費、仕入商品、外注費、販売手数料など。売上がゼロなら発生しない費用です。 -
固定費:売上に関係なくかかるコスト
地代家賃、役員報酬、従業員の固定給、減価償却費、リース料など。売上がゼロでも支払わなければならない費用です。
この2つを分けると、「限界利益(売上 - 変動費)」が見えてきます。この限界利益で、固定費をどれだけカバーできているかが経営の生命線です。
【シミュレーション】利益を2倍にするための「3つのアプローチ」
ここで簡単なシミュレーションをしてみましょう。
【現在の状況】
売上:1,000万円
変動費:600万円(変動費率60%)
限界利益:400万円
固定費:350万円
営業利益:50万円
この「利益50万円」を2倍の「100万円」にするにはどうすればよいでしょうか。
パターンA:売上を増やす
原価率を変えずに売上だけで利益を50万円増やすには、売上を112.5%(1,125万円)まで伸ばす必要があります。12.5%の増収は、現場にかなりの負荷がかかります。
売上:1,125万円
変動費:675万円(変動費率60%)
限界利益:450万円
固定費:350万円
営業利益:100万円
パターンB:変動費(変動費率)をカットする
売上はそのままで、仕入の見直し等により変動費を約8%(600万円→550万円)削減できれば、それだけで利益は100万円になり、2倍を達成できます。
売上:1,000万円
変動費:550万円(変動費率55%)
限界利益:450万円
固定費:350万円
営業利益:100万円
パターンC:固定費をスリム化する
売上も原価もそのままで、使っていないサブスクの解約や家賃交渉などで固定費を約14%(350万円→300万円)削減すれば、これも利益2倍を達成します。
売上:1,000万円
変動費:600万円(変動費率60%)
限界利益:400万円
固定費:300万円
営業利益:100万円
いかがでしょうか。「売上を12.5%伸ばす」よりも、「経費を8〜14%見直す」ほうが、明日から着手できそうな気がしませんか?
【プラスアルファ】利益を爆増させる「営業レバレッジ」の魔法とリスク
ここまで「固定費」と「変動費」を分ける大切さをお伝えしてきましたが、この2つのバランス(比率)を意識的に変えることで、利益の増え方をさらに加速させることができます。
これを専門用語で「営業レバレッジ」と呼びます。
固定費の比率を増やすと「加速装置」が手に入る
例えば、外注(変動費が高い状態)だった仕事を、あえて高い機械を導入して内製化(固定費が高い状態)したとします。
すると、売上が1件増えるごとに引かれる「変動費」がグンと減るため、限界利益として手元に残る割合が多くなり、固定費を回収し終えた後は、売上が伸びるスピードをはるかに超える勢いで利益が爆増していきます。これが営業レバレッジを効かせた状態、いわば「利益の加速装置」を手に入れた状態です。
【発展シミュレーション】営業レバレッジを高めて「利益爆増」を狙う
さきほどの例(売上1,000万円・利益50万円)から一歩進んで、システム導入などで「仕組み化」を進めた場合を考えます。
【パターンD:レバレッジ強化型】
売上:1,000万円(据え置き)
変動費:400万円(変動費率を60%→40%へ改善)
限界利益:600万円(限界利益率 60%)
固定費:550万円(固定費を350万円→550万円へ増加)
営業利益:50万円
この状態は、利益こそ以前と同じ50万円ですが、「利益の加速装置」が強力になった状態です。ここで売上が12.5%(1,125万円)に伸びた時の利益を比較してみましょう。
1. 通常の状態(パターンA)の場合
-
売上 1,125万円 × 限界利益率 40% - 固定費 350万円 = 利益 100万円
-
売上が12.5%増えると、利益は2倍(+50万円)になりました。
2. レバレッジ強化型(パターンD)の場合
-
売上 1,125万円 × 限界利益率 60% - 固定費 550万円 = 利益 125万円
-
同じ売上の伸びなのに、利益は2.5倍(+75万円)にまで跳ね上がります!
これが営業レバレッジの威力です。限界利益率(粗利率)を高めておくと、損益分岐点を超えたあとの「伸び」が恐ろしいほど鋭くなります。
ただし「諸刃の剣」であることも忘れずに
この加速装置には、注意点があります。それは「売上が下がったときも、減り方が爆速になる」という点です。
-
固定費が高い会社(レバレッジ強)
売上が絶好調のときは利益がすごい勢いで増えますが、不況で売上が少し落ちただけで、重たい固定費を払いきれず、一気に大赤字に転落する危険があります。 -
変動費が高い会社(レバレッジ弱)
利益の増え方はゆっくりですが、売上が減ったときも一緒にコストも減るため、赤字になりにくく安定しています。
「今は攻める時だから固定費をかけてレバレッジを効かせよう」 「今は守る時だから固定費を削って身軽になろう」
このように、会社の状況に合わせて「固定費と変動費の割合」をコントロールする。これこそが、売上1.2倍で利益を2倍、3倍と増やしていく経営の醍醐味なんです。
経営者が「明日からできる」3つのアクション
「数字は分かったけれど、具体的に何をすればいい?」という方へ、明日からできる3ステップをご提案します。
-
直近3ヶ月の試算表を「変動費」と「固定費」に色分けする
まずは現状把握です。経費の科目の横に「変」「固」と書くだけで、会社の「利益の出やすさ」が可視化されます。 -
「単価」を1%上げる工夫を考える
単価アップは、変動費を増やさずに限界利益をダイレクトに増やします。付加価値の説明を1つ増やすだけで、利益構造は劇的に改善します。 -
「売上を作るために発生している固定費」を疑う
売上を追うために無理して借りている倉庫や、効果の薄い広告などは、実は利益を圧迫する最大の要因かもしれません。
まとめ
-
売上を追う前に、まずは自社の「利益が出る構造」を知ることが先決。
-
「変動費」と「固定費」を分けることで、どこにテコ入れすべきかが明確になる。
-
売上を増やすより、コストを改善するほうが、利益2倍への近道になることが多い。
利益が増えれば、従業員への還元や、次なる成長への投資も可能になります。まずは手元の試算表を眺めることから始めてみましょう!
※個別具体的なアクションについては当事務所までご相談ください!
【免責】
本ブログに記載した情報は、執筆時点の法令および一般的なビジネス慣行に基づいています。掲載情報の正確性には万全を期しておりますが、会計・税務上の取扱いに関して個別具体的な事案への適用を保証するものではなく、また経営・財務戦略の成果は市場環境や個別状況に大きく左右されるため、その正確性や妥当性を保証するものではありません。
本記事では、難しい専門用語や複雑な会計処理を避け、どなたでもイメージしやすい表現を用いて解説しています。そのため、厳密な法律の定義や会計基準とは一部異なる表現を含んでいる場合があります。
掲載情報の導入・実施、および最終的な経営判断に際しては、読者ご自身の責任において慎重にご判断ください。本情報の内容に基づき生じた損害(直接的・間接的な事業損失、税負担の増減、利益の喪失等を含む)について、当事務所は一切の責任を負いかねます。





